*第一章 はじめに

 生まれた人は必ず死ぬというのは、誰にとっても避けることのできない事実である。では、人はいつこの世に「おぎゃー」と生まれ、人はいつ「ふー」と最後の息を吐いてこの世を去るのだろか。この「いつ」ということに注目したい。
 人の生まれる時間については、「潮の満ち引き」や「薬による時間のコントロール」などの影響がいわれているが、これはもっとも、お腹の中である程度生まれる準備が整った状態から、あとはどのタイミングで母体の外へ出すかの問題であり、時間のコントロールは多少可能である。
 では、「死」についてはどうだろうか。「自殺」や「尊厳死」など特殊な場合を除くと、多くの人は臨終に際し医療機関の世話になる。現代の医療においては、「可能な限り延命させる」という考えが尊ばれており、人はいわゆる延命治療の限りを尽され、本人の生命力が尽きるまで生かされることとなる。「生まれることは人の手によって多少コントロールできる」が、「死はその限りではない」のである。この「死のタイミング」について考える。
 葬儀業界の噂には「何曜日は死亡退院が少ない」「年末は死亡退院が多い」「年始は死亡退院が少ない」「ゴールデンウィークは死亡退院が少ない」「休日は死亡退院が少ない」「昼より夜の方が死亡退院は多い」「満月に死亡者が多い」というものがある。著者自身、年末の12月28日頃から12月30日にかけての死亡退院の多さや年始の国民的休日期間の死亡退院の少なさ、また、日勤に比べ夜勤のときの死亡退院の多さなども現場で感じることがある。
 これらの噂はおそらく先達の多数の経験によって発生したものと推測されるが、果たして実際はどうなのだろうか。「葬儀屋が気になる視点」により統計をとり、先述の「葬儀業界の噂」が事実なのか思い違いなのかを調べるのが、小論の目的である。


*第二章 調査項目およびデータ概要

 調査項目としては、曜日関連項目として、曜日及び祝日関係、年末年始、ゴールデンウィークにおける死亡者数を調査する。また、気候関連項目として、気温・気圧・湿度と死亡者数を比較する。以下に各調査項目について記す。また、使用したデータの概要を示す。


2.1 曜日関連

 曜日によって死亡者数に差異があるのかを調べる。それぞれの項目で使用する死亡率とは、その日の死亡者数を対象期間内の総死亡者数で割った数値である。


2.1.1 各曜日について

 月曜日〜日曜日の各曜日についての死亡率を調べる。週明けの月曜日は大部分の会社員にとって仕事はじめであり、オフの体をオンにしなければならない。精神的なストレスが肉体におよぶことが想像できる。また、月曜日〜週末にかけては体は慣れていっても疲労が溜まってくると考えられるが、週末の休みを楽しみにしていれば頑張れるのではないだろうか。また、仕事から解放されているお年寄りの場合は、現役世代と同じ傾向がみられるのか異なるのかも検討する。そのために、調査範囲を60歳未満と60歳以上に分け、また、合計したものについても調べる。


2.1.2 土・日・祝日

 働く人にとって休日とは体力、気力の回復にあてる大切な日だと思われる。そこで、土・日・祝日とその前後の死亡者数について調べる。
 調査は、休みの前日にあたる「休み前」、「休み」、最終休みの翌日の「休み明け」、また、休みと休みの間として「谷間」1、そして、そのいずれにも該当しない「平日」に分けて調べる。なお、ここでの死亡率は、該当する日の死亡者数を該当する日数で割った数値で比較する。すなわち、該当する日一日あたりの死亡者数の割合とする。


2.1.3 ゴールデンウィーク

 「ゴールデンウィークは皆休みたいから、よくない人はその前に、まだまだいけそうな人は、その後に…」という噂がある。お医者さんも人間であり心ある生き物であるからなどという議論は本研究では触れないが、果たしてそんなことがあり得るのか、ゴールデンウィークとその前後の死亡者数について調べる。
 方法は、一般的にゴールデンウィークと言われる期間をカレンダーから求め、その前後約1週間の死亡者数とゴールデンウィーク中の死亡者数との対比をする。また、ゴールデンウィーク近辺の日々の死亡者数をグラフ化し、4月末〜5月初旬に何かしらの特徴がみられるかも調べる。


2.1.4 正月(年末年始)

 ゴールデンウィークは、最近では営業する会社も多いようだが、年末年始については国民的イベントであるため、前述のことがさらに顕著に起こると噂されている。そのような事があるとは思いづらいのであるが、実際はどうなのか、正月(年末年始)及びその前後について調べる。
 対象期間は12月24日〜1月8日とし、期間中の合計死亡者数に対する各日の死亡者数の割合を出し、調査する。

2.2 時刻関連


2.2.1 時刻

 夜勤で泊まっているときに著者がもっとも辛いのは午前2時頃(すなわち丑三つ時)の死亡の連絡を受けたときである。また、振り返って見れば、仕事が出る(死亡時刻から30分程度)時刻というのはある程度偏りがあるように感じる。そこで、時刻による死亡者数について調べる。また、夜勤をしているときは日勤のときより仕事が多い気がする。そこで、日中と夜間の死亡者数も比較する。ただし、日中とは午前7時から午後7時までとし、それ以外を夜間とする。


2.2.2 潮汐関連

 人が生まれるのは潮の満ち引きが関連していると噂されるが、人が亡くなるのもやはり関連があるのだろうか、毎時潮位とその死亡数について調べる。

2.3 気候関連


2.3.1 気圧

 気圧と死亡者数の関連を調べる。


2.3.2 最高気温

 健常者でもバテるように、暑いときには死亡者が多くなると考える事ができよう。また、急に暑くなったときなども体力的にしんどく感じる事が多いため、最高気温と死亡者数について調べる。


2.3.3 最低気温

 冬季の死亡者が多いのは葬儀業界の定説であるが、先述の最高気温と同様、最低気温と死亡者数について調べる。


2.3.4 平均気温

 ここでいう「平均気温」とは、一日の間の平均気温のことであり、その日の最高気温と最低気温を足して2で割った値である。この平均気温と死亡者数について調べる。


2.3.5 湿度

 湿度についてもさして目星があるわけではないのだが、調べて見る。


2.4 データ概要

 本調査で使用するデータは、気象庁のデータ、公益社営業システムのデータである。気象のデータについては、気象庁ウェブサイトより取得した。公益社営業システムのデータ2については、死亡日に関しては2002年10月1日〜2005年3月31日までのものを使用し、死亡時刻に関しては主に2005年6月1日〜9月30日までのものを使用した。


*第三章 結果と考察

 それぞれの調査結果と考察を以下に記す。

3.1 曜日関連


3.1.1 各曜日について

 曜日によって死亡者数に差異があるのかを調べた。図1は全年齢3、図2は60歳未満4、図3は60歳以上5を調査した結果である。
 まず、全年齢(図1)について年度毎に見ると、2001年度は火曜日に低くなった後、木曜日にかけて増加していき、再び日曜日にかけて下がっていた。2002年度は2001年度と似たような結果となっていた。2003年度はそれまでとは若干異なり、水曜日と土曜日がボトムになっていた。2003年度は他の年とは傾向が大きく異なり火曜日に最大になり、木曜日に最低になっており、その差も4年間では最も顕著であった。このように年度毎に若干の傾向は見られるものの、合計するとほぼ一様であった。このことから、月曜日〜日曜日にかけて、死亡率は曜日により若干の差があるものの、差異については平均値14.29%を挟んで0.4ポイント以内である。よって、全年齢では曜日による差ほぼ認められない。
 現役世代と考えられる60歳未満の年齢層(図2)については前述の合計と同様、年度毎の特徴はあるものの、こちらでは合計したものでもはっきりとした傾向がみられる。まず、週始まりの月曜日から水曜日にかけて微増(+0.4ポイント)した後、金曜日にかけて急減、最小値(約12.9%)をとり、土曜日、日曜日に増えていることがわかった。現役世代では金曜日が明らかに死亡率が低かった。
 いわゆる引退世代と考えられる60歳以上の年齢層(図3)についてみると、2004年度のみ起伏がみられるが、概ね月曜日をピークとして水曜日にかけ減少、そこから金曜日へと増加、土曜日に微減して、日曜日に増加という傾向があった。しかし、これらも概ね平均値から0.4ポイント以内での動きであり、偏りがあるとはいえない。


3.1.2 土・日・祝日

 土・日・祝日とその前後の死亡者数について調べた。結果を図4に示す。休みの日である土・日・祝日の前と期間中、および後で比較したところ、その差異はほぼ認められない。しかし、「休日」およびその前後にも該当しない日については、明らかに死亡率が低いことが分かった。


3.1.3 ゴールデンウィーク

 まず、ゴールデンウィークの期間は、カレンダーより下記のように定めた。
 ・2002年:4月28日〜5月6日
 ・2003年:4月27日〜5月5日
 ・2004年:4月29日〜5月5日
この期間とその前後の死亡者数を基に調べた6。
 図5は、ゴールデンウィークの前、後およびゴールデンウィークの最中の死亡者の割合を調べたものである。前、中、後の日数は各年度のゴールデンウィークの日数と同じとした。結果として、2004年度以外は減少傾向がみられるが、トータルではゴールデンウィーク後に1ポイント程度の減少がみられる。よって、明らかな傾向は無い。
 次に、一日あたりの平均死亡者数をみてみる7(図6)。実線は3年分の指定日の期間から求めた各日の死亡割合を表し、破線は移動平均を表す。ここからはゴールデンウィーク直前に若干割合が下がり、ゴールデンウィーク中に上がるという傾向がみられるが、その差は1ポイント以内と小さなものである。
 以上より、ゴールデンウィークによって死亡者数が殊更に変化することは無い。


3.1.4 正月(年末年始)

 正月(年末年始)及びその前後について調べた8。結果を図7に示す。調査期間を合計したものでは12月25日にピークがみられ、12月27日、1月4日が少なかったものの、顕著な差は認められなかった。年度毎でみていくと、2001年度は12月25日と1月5日にピークがあり、2002年度は12月26日と1月1日に、2003年度は12月26日と12月27日にピークがあり、年始は1月5日に多くなっている。2004年度については、12月25日、12月30日、1月5日にピークが見られた。
 死亡者数が跳ね上がることは1週間に一度程度は起こっていることであり、年末にも同じ事が起こっているだけである。よって、年末に確かに死亡者数が多い日はあるが、これは特殊なことではない。

3.2 時刻関連


3.2.1 時刻

 時刻による死亡者数について調べた9。結果を図8に示す。日中と夜間の死亡割合の結果を図9に示す。
 時刻別の死亡率は、深夜0時〜1時と正午前に高く、午前4時〜午前5時と午後7時〜午後8時に低いことが分かった。
 日中と夜間の死亡割合は日中が約55%であり夜間より多かった。夜勤はほぼ一人で走り回る為、やたらと忙しいように感じていたようである。


3.2.2 潮汐関連

 潮位と死亡数について調べた10。結果を図10に示す。期間は2005年6月1日〜2005年9月30日。グラフ上で検討する限り、明確な関係は認めにくい。


3.3 気候関連

 四季に分けて調査した。すなわち、春:3月〜5月。夏:6月〜8月。秋:9月〜11月。冬:12月〜2月とした。2002年〜2004年について調べたが、どの年も同様に傾向がみられなかったため、2002年の物だけを掲載する。季節により整理した結果の図番号一覧を表1に示す。

表1:調査結果図番号一覧
2002年 最高気温 平均気温 最低気温 気圧 相対湿度
図12 図16 図20 図24 図28
図13 図17 図21 図25 図29
図14 図18 図22 図26 図30
図15 図19 図23 図27 図31


3.3.1 平均気温

 一日の間の平均気温と死亡者数について調べた。結果を図12、図13、図14、図15に示す。平均気温と死亡率にはっきりした関係は無かった。ただし、数年間を通じてみると、寒い時期は暖かい時期より死亡数が多い事がわかった11(図11)。これは葬儀業界の繁忙期と重なる。


3.3.2 最高気温

 最高気温と死亡率について調べた。結果を図16、図17、図18、図19に示す。気温が上がったところで急に死亡者数が増加することはなかった。最高気温と死亡率にはっきりした関係は無かった。


3.3.3 最低気温

 最低気温と死亡者数について調べた。結果を図20、図21、図22、図23に示す。最低気温と死亡率にはっきりした関係は無かった。


3.3.4 気圧

 気圧と死亡者数について調べた。結果を図24、図25、図26、図27に示す。気圧と死亡者数について、はっきりした関係は無かった。


3.3.5 湿度

 湿度と死亡者数について調べた。結果を図28、図29、図30、図31に示す。湿度と死亡率について、はっきりした関係は無かった。


*第四章 結論

 今回の調査により以下のことがわかった。
 「年末に死亡者が多く年始に死亡者数が少ない」ことは無い。
 「ゴールデンウィークは死亡退院が少ない」ことは無い。
 「休日は死亡退院が少ない」ことは無い。どちらかといえば死亡率は平日の方が低い。
 曜日別死亡率はほぼ一定している。ただし、60歳未満では金曜日は他の曜日と比べて2ポイント程低い傾向があることが分かった。60歳以上ではほぼ差は無い。
 死亡時刻については、明らかに死亡率の高い時間帯と低い時間帯のあることが分かった。高い時間帯とは、午前0時〜1時と、午後11時〜12時であり、少ないのは午前5時〜6時、午後7時〜8時であった。
 日中・夜間の割合については55対45で日中の方が死亡率が高かった。日々の死亡者数は日々の気候にあまり左右されていないことが分かった。ただし、季節が寒くなると増加していることも分かった。
 潮汐に関しては現段階では明確な関係はみられなかった。


*第五章 今後の検討課題

 今回の研究では総覧的な調査しか出来ていない。今後の課題としては、例えば、潮汐関連について細かく期間を分けて比較するなど、今後はそれぞれの項目について精査していく。

- 謝 辞 -

 本研究を行うにあたって、多忙な中をデータ収集にご協力をしてくださった株式会社公益社の営業社員の皆様方および関係各位に深く感謝致します。