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葬礼談義 Interview
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犬童一心さん+中西通
公益社創業70周年記念対談 藤本義一さん+播島幹長

 
映画監督 株式会社公益社
代表取締役副社長
犬童 一心 さん   中西 通
 老人ホームで悠々自適の日々を送る老人たちに、ある日突然に仲間の死が訪れました。亡き友の遺した「死に花」というノートには、銀行から17億円を強奪するという計画が! 名優たちが一堂に会した『死に花』のメガホンを取った犬童一心監督に死生観を語っていただきました。

中西 『死に花』を大変興味深く鑑賞させていただきました。老人たちが実に生き生きと、そしてスピーディーに小気味の良いテンポで描かれていてとても楽しい映画でした。映画では、藤岡琢也さん演じるJAZZ好きの源さんが、自分の葬儀を華やかに演出するんですね。
犬童 源さんは、人生は楽しむためにある、と考えていた人なので、あの葬儀には、自分らしくありたいという思いと、葬儀に来た人たちを楽しませたいという気持ちが込められているんです。実際に映画の中で葬儀を扱ってみて、葬儀会社って舞台監督みたいなもんじゃないかなと思いました。
中西 私どもはあくまでお手伝い役。皆さまのご希望にそってコーディネートするわけですが、最近では、「地球葬」(後註)といって亡くなられた方が黒潮の流れが好きだったからと、船をチャーターして海に散骨したり、山登りが好きだった方を偲んでアルプスに遺骨をまく、といったような葬儀も少なくないんですよ。今後こういった個性的な葬儀は増えていくでしょうね。(註…「地球葬」は公益社の登録商標です)
犬童 ということは、皆さん生きているうちに自分の葬儀について考えておられるわけなんですか?
中西 昔はまだ元気で生きているのに縁起でもない!と、生前に葬儀について語ることはタブー視されていましたが、最近では事前に、ご本人から生前予約を受けることもあります。また、自分の葬儀のあり方などについて記すエンディングノートを作成される方も増えてきました。このエンディングノートは、元松下電器労組委員長で当社の監査役にもなっていただいたことのある高畑敬一様が主催するNPO「ニッポン・アクティブライフ・クラブ」が出しているもので、隠れたベストセラーだと思います。
犬童 そうなんですね。実は僕は葬儀のことを何も調べないまま、せっぱつまって脚本を書いたんですよ(笑)。
中西 いや、とんでもない。とても深く葬儀や人の死についてとらえられていると思いましたよ。
犬童 たしかに葬儀というセレモニーでは、送る人、死ぬ人の気持ちが鮮やかに現れやすい場面ですよね。

中西 監督は生と死を描く作品が多いのですが、きっかけは?
犬童 いや、僕はもともとマカロニウエスタンが好きな映画少年だったんです(笑)。脚本を担当した『黄泉がえり』や『大阪物語』、『金髪の草原』など、自然な流れで生と死を扱う作品に関わることが多くなりました。ただ、僕は小津安二郎監督が好きで、学生時代に毎日、小津監督の映画を観ていた時期があるんです。小津監督が描いていたのは、一貫して普通の日常なんですよ。でもその根底には、普段の生活は退屈でつまらないことに惑わされたりすることもあるけれど、生きていること、何でもないことが実はかけがえのないものである。日常のささいなことがとても満たされた大切なものであるというメッセージがあるんです。高校生のときに観たら、つまらない映画だったかもしれませんが、幸いに観たのが20歳のときだったので(笑)。今振り返ると、この小津映画の影響は大きいかもしれませんね。
中西 平凡な人生こそ大切なんですね。死を前提とするからこそ、生の大切さが痛感できるのでしょう。
犬童 小津監督は、お母さんと二人暮らしで、生涯、家族をもたないまま亡くなられたんですね。とても寂しがりやだったと聞いていますが、家族がいたら、その死がよけいに寂しくなるから独身を通したのかなぁと思うことはあります。北野武監督の『HANA-BI』のなかで「人が死について考えすぎると怖くて死にたくなる」という台詞があるのですが、人間は経験したことのないことを考えると怖くなるんですよね。考え過ぎはよくないけど、生きていることを描くことは、死について考えないとリアリティが生まれてこないんです。ただ生きているだけではない。いつかは死んでしまうことを前提にして、今をかけがえのないものとしてとらえることは大切だと思います。

中西 監督の「死」についてのお考えを聞かせてください。
犬童 シナリオを書いていると、いろんな登場人物の気持ちになるんですよ。人によって死生観はさまざまだなぁと。ただ、ひとつだけ共通していることは、“よく死んでいきたい”という気持ちなんです。それは、納得する死というのとも少し違う。そこで僕はこの“よく死ぬ”ということについて考えてみたのですが、自分なりに精いっぱい“よく死んでいく”ために、それぞれが人に気持ちを伝えていくこと、他人のために何かをしたい、ためになりたい、というような気持ちだと思いました。
中西 源さんの葬儀にも“よく死んでいきたい”という気持ちがあふれていましたね。
犬童 源さんの心のどこかに、老人ホームの仲間に対して“死ぬということ”を伝えておきたかったんじゃないかと思います。老人ホームの日々が退屈だとかグチを言っている仲間に、残された人生を楽しんでほしいということ。死んでしまえば、その退屈な時間さえなくなってしまうんです。源さんにとっての“よく死んでいく”ことは、そういう気持ちを伝えることだったんです。
中西 監督にとっての“よく死んでいく”こととは、どういうことでしょうか?
犬童 うーん、実はまだよくわからないんですよね。今、思うことは、自分が満足できることではないことだけは確かです。周りの人間を思って死んでいくこと、誰かに何かを伝えて死ぬこと。たとえば、もう余命いくばくもないのに、孫の受験の心配なんかするおばあさんっているでしょう。自分の死に接しても他人のことを思いやれる人生は素晴らしいと思いますね。やっぱり、自分のためだけでなく人のためにも一所懸命に生きていくこと、そして充実した人生を送ることが、“よく死んでいく”ことに繋がっていくのでしょうね。

犬童 都会では、人の死が身近でなくなって、とても遠いところにあるじゃないですか。昨日まで、一緒に過ごした人がいなくなるという現実。僕は東京生まれなので死は隠れたもの、というイメージがあるんです。でも、地方には、その土地独自の葬祭文化というものがありますよね。
中西 私は土佐の生まれなのですが、近所の方々が葬列を組んで歩くんですね。以前インドネシアに5年間ほど暮らしたことがあるのですが、ここには葬列の習慣が濃厚に残っていましたよ。特にバリ島の葬列は竹竿の飾りなど郷里の土佐のそれとそっくりで、驚きました。
犬童 中国でも葬列をしますよね。そういった独特の文化やしきたりって、どんどん廃れていっていますよね。人間関係が希薄になっていくことと関係があるのでしょうか?今の日本は人が死ぬことを目に見えないようにしているような気がします。子どもから死を遠ざけると、目の前にいる親しい人間がいずれいなくなるという感覚がなくなってしまいますよね。
中西 核家族化して、ますます死がゲームや漫画だけの世界になると、死への畏敬の念が薄れてしまいますね。このことが、最近の低年齢層の痛ましい事件の遠因のような気がしてなりません。
犬童 でも、公益社さんの若い社員の方は、20代の前半で人の死を扱う仕事をされているわけですから、これはすごく貴重な体験ですよね。
中西 一般的には、病院でお亡くなりになると、ご遺体を引き取りに伺い、ご自宅に安置させていただきます。そして必ず納棺を経験させるのです。ご遺体を扱うわけですから確かに、若い社員にはとても緊張感のある仕事です。10年前から当社では大学新卒を採用しているのですが、それでも定着率は80%なんですよ。
犬童 それはすごくやりがいのある素晴らしい仕事ですね。若いうちからそういうお仕事に従事されているとしっかりした死生観が生まれるでしょうね。
中西 やはり我々は、ご遺族から感謝の言葉をいただくときが、この上なくありがたい瞬間です。当社の播島会長が常々社員に対し、種々の困難を乗り越える努力をして仕事の目標を達成したとき、人は喜びを味わうものだ、これこそ「自己実現」でこれで仕事の満足を得ようと云っています。監督の演出された『死に花』の老人たちが、苦労して穴を掘り続け、やっと目的の金庫に辿り着いて達成したときのあの喜びの姿こそ、まさにこの自己実現だと私もついつい心で快哉を叫びました。

中西 私たちは、新しい葬儀のあり方を考えるとともに、葬儀の中に込められた昔ながらのしきたりや意味は大事に守り伝えていこうと心がけています。葬祭研究所を設立して、名乗り出た社員がそれぞれテーマを持って研究し、その成果を論文集にまとめて発表もしています。また、当社は葬儀だけでなく、これからは世代を超えたところにも視野を広げ、例えば健康や暮らしのお手伝いをするライフサポートビジネスにも力を入れていきたいと考えているんです。このあたりのことで、監督のアドバイスを何かいただければありがたいのですが。
犬童 たしかに、中年、壮年といわれる世代は、時流から抜け落ちている年代ですよね。サラリーマン家庭の崩壊劇を、陽気かつシニカルに描写した映画『アメリカン・ビューティー』でフォーカスされたミドルエイジクライシス(中年の危機)という声は世界的にも広まっています。40代は肉体的、精神的な衰えを実感し、漠然とした不安を抱き始める。また、はじめて死を意識する年代です。自分の親が亡くなり、次は自分だと、死が現実的になる年代でもありますね。
  昔の40代に比べて、今の40代はずいぶん幼く育っています。そういう大人にならねばならない40代のために頑張ってください。期待しています(笑)。
犬童 一心 氏 1960年、東京都生まれ。79年『気分をかえて?』でぴあフィルム・フェスティバルに入選。その後はCMディレクターや脚本家としても活躍するほか、ブロードバンド映画『手を握る泥棒の物語』も手がける。主な作品に『赤すいか黄すいか』(82)、『二人が喋ってる。』(97)、『金魚の一生』(97)、『何もかも百回もいわれたこと』(97)、『大阪物語』(99/脚本)、『ドリーム メーカー』(99/脚本)、『金髪の草原』(00)、『黄泉がえり』(03/脚本)、『ジョゼと虎と魚たち』(03)がある。最新作は今春公開された『死に花』。
中西 通 1936(昭和11)年、高知県生まれ。1960(昭和35)年、京都大学法学部卒業。帝人を経て、1994(平成6)年公益社へ入社。2003(平成15)年、代表取締役専務、2004(平成16)年6月、代表取締役副社長に就任、現在に至る。
中西 今日の監督のお話はいろいろ示唆に富んだ内容で大変参考になりました。これからは葬儀のみならず、ご遺族のサポートやまた、みなさんのかけがえのない素晴らしい人生に焦点をあて、そこで何かお手伝いをすることはないか、さまざまなサービスを考えてゆき、そして徹底してそのサービスの質を高めていきたいと思っています。今日はお忙しいところ、お時間をいただき本当にありがとうございました。
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