葬祭研究所トップページへ
お葬式の豆知識
葬礼談義
世界のお葬式
偉人達の終日
漢字キーワード
葬儀の民俗学
葬祭なるほど話
葬儀に関する論文
葬儀のコラム


葬儀に関するお問合せコーナー
葬儀に関するエッセイ・コラム募集箱
運営会社案内

葬礼談義 Interview
香山リカさん+吉田武
田辺聖子さん・藤本義一さん+播島幹長
佐藤喜宣さん+吉田武
犬童一心さん+中西通
公益社創業70周年記念対談 藤本義一さん+播島幹長

 
株式会社公益社
代表取締役社長
杏林大学医学部教授
医学博士
吉田 武 佐藤 喜宣さん
 日本語では「遺体衛生保全」と訳されているEmbalming(エンバーミング)とは、欧米を始めとする先進国を中心に発達した、ご遺体の減菌および防腐・保存の科学。ご遺体の尊厳を守り、衛生的かつ生前のままの安らかな表情に復元するエンバーミングは、ますますその需要が高まっています。法医学全般にわたる研究のなかで、エンバーミングにも造詣の深い杏林大学医学部法医学教室教授・医学博士の佐藤喜宣氏にお話を伺いました。

吉田 先生は法医学者の立場から、数々のエンバーミングの現場に立ち会ってこられたと存じますが、エンバーミングの意義についてどのように考えておられますか?
佐藤 エンバーミングの目的は、まずご遺体の滅菌です。ご遺族の方がご遺体に触れた際に、病原菌に感染するおそれを防ぐため。これは血管内と腹部に薬品を注入することで、病原菌や微生物を除去できます。特に感染症でお亡くなりになった場合などは、必要不可欠です。そしてもうひとつの目的は、ご遺体の保存です。防腐処理を施すので、2週間ほどそのままの状態を保つことができるため、慌てて葬儀をしなければならないという時間的拘束がなくなります。また、生きておられたときと同じように外見を修復し、生前に近い生き生きとした表情にメイクアップしたり、ヘアスタイルを整えます。長い闘病生活で疲れたお顔や交通事故などで顔などに損傷のある場合も、可能な限り生前の姿に回復させることができます。エンバーミングは、死者の尊厳を取り戻すために大切な技術なんですよね。
吉田 これまでの場合ですと、亡くなられた日から2〜3日のうちに葬儀を行う日程が組まれることが多く、たとえばご親族の方が海外におられる場合など、駆けつけたときにはお骨になった後ということも多かったですね。しかし、エンバーミングを施すと生前と変わらぬお姿のご遺体と対面できることで、しっかりとお別れができます。人間はご遺体を見て、初めて別れを認識できるといわれています。
佐藤 これは「悲嘆の科学」といって、実は科学的にも実証されているのです。しっかり悲しむほど、早く悲しみから立ち直れるんです。ご遺体と対面して、手をにぎったり、あるいは頬にふれたりすると冷たさを感じると思います。これによって”死“を認識できる。同時に生きていることを感じることができる。生かされている自分に気がつくんです。命の大切さを学ぶ大変有意義な機会でもあるんですね。
吉田 以前、エンバーミングをさせていただいたお客様から「孫がおじいちゃんの遺体に頬ずりしてくれました」というお便りをいただきました。これもご遺体が生前のお姿に近い状態だったからだと思うと感慨深ったですね。
佐藤 本来、遺体は畏れるものではないんですよ。昔は骸を囲んで死者の昔話などをしてお別れをしたもんです。近来の葬儀ですと、ご遺体とご遺族の距離がありすぎた。エンバーミングによって、ご遺体をご遺族のもとに取り戻せるんですね。
吉田 また現在の葬儀のスタイルでは、火葬場のスケジュールから逆算して、葬儀の段取りが決められます。しかし、エンバーミングをすると、2週間はそのままの状態で、ご遺体を保存できるわけですから、葬儀のスタイルや納骨の時期など、選択肢が広がることも大きな利点。あくまでご遺族本位の葬儀が実現できるわけです。
佐藤 これだけ個人のライフスタイルが多様化しているのですから、葬儀にも選択肢が増えるのはとても喜ばしいことですね。

吉田 エンバーミングは古代エジプト文明にも見られる古い歴史を持つ技術ですが、アメリカの南北戦争(1861〜65年)を境に普及したと言われていますね。
佐藤 その後1920年から30年代に、遺体保存の技術が発達し、ベトナム戦争当時は戦死者の遺体を母国へ帰す必要から、長期間の遺体保存のためエンバーミングが行われ、現在、アメリカやカナダでは特別の宗派を除いて、死亡者の95%以上にエンバーミングが実施されています。火葬が一般的なシンガポールでも約70%の普及率ですね。
吉田 現在、日本では年間に約1万二千人(平成十四年)の方が葬儀にあたってエンバーミングを利用されています。当社で本格的に取り組むきっかけとなったのは、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災がきっかけなんです。多くの死者が出て、火葬場が足りず、遺体の腐敗が心配されましたが、そこでご遺体にエンバーミングを施し、腐敗の進行を止めさせていただきました。先生もボランティアで、6名のエンバーマーを連れて神戸に向かわれたんですよね?
佐藤 神戸市灘区の王子体育館で、約200体の遺体の身元確認を行ったのですが、40体の遺体が身元不明でした。そこで、これらの遺体にエンバーミングを施した結果、すべてのご遺体をご家族の元にお返しすることができました。その時に参加していただいたエンバーマーの方々に感謝しています。
吉田 保存さえきちんとできていれば、必ず身元の確認はできますね。阪神・淡路大震災を契機に、我々もエンバーミング技術の先進国であるアメリカに足を運び、優秀な技術者を確保し、施術のための専門施設を設け、2001年12月に本格的にエンバーミングをスタートさせました。それから徐々に口コミでエンバーミングのよさが伝わるようになり、2002年度には予想を上回る1817人を手がけました。
佐藤 以前、身元不明のイラン人のご遺体がありまして、地方自治体が勝手に火葬してしまったことがあります。イランは土葬が原則なので、あわや国際問題になりかねない、といった事件がありました。また、フィリピン人のご遺体をエンバーミングして故国へお送りしたのですが、その技術に不備があり、病死にもかかわらずリンチによる殺人ではないかと誤解され、大きな問題となったこともあります。エンバーミングは法律がまだ整っていないため、自主基準で実施されているのが現状です。国際的な問題から考えても、エンバーミングの法整備と普及は大切なことだと思いますね。
吉田 中国で亡くなられた日本人の方が、エンバーミングを施されて帰国し、ご遺族がしっかりとお別れをすることができたという話も聞いております。国際社会のなかで、エンバーミングをきちんと取り入れることはとても重要です。
佐藤 法医学的に”死“には2つの意味があります。ひとつは生物的な死、そしてもうひとつは社会的な死です。人間は社会の中でいかに生きてきたかという歴史があります。単なる生物的な死だけでは容認できない社会的な死を無視すると、残された人間は混乱します。たとえば、企業のトップや大学の学長など、大勢の人間に影響を与える立場の人や社会的なリーダーの場合、社葬のようなセレモニーは不可欠です。レーニン廟のレーニンもエンバーミングされて保存されていますしね。
吉田 死をきちんと受け止めて、しっかりと次へバトンタッチするためにも必要ですね。しかし、社葬の場合は準備などの問題もあり、最短でも葬儀は死後1週間後になります。こういった場合に、エンバーミングが果たす役割は大きいですね。

吉田 当社ではエンバーマーを、スタート当初の3名から6名体制に増強しました。現在は外国人のエンバーマーが中心です。
佐藤 これからは高い技術力とともに、日本人のセンスに合ったエンバーマーが必要でしょうね。外国人のエンバーマーの場合、技術的には問題なくとも、メイクアップの仕方などに違和感のあるケースも見受けられますからね。日本人の好む”ほのかな“というニュアンスがなかなか伝わりにくいのです。
吉田 そこで我々は、10月1日にエンバーマーを養成する「公益社フューネラル・サイエンス・カレッジ」を開校いたしました。これは履修期間2年、カリキュラムはエンバーミングの技術だけでなく、葬祭学や心理学など多方面にわたっており、卒業生はIFSA(注)認定のエンバーマー受験資格が得られます。
佐藤 心理学や葬儀に関する授業を設けられているのは、素晴らしいですね。エンバーマーは技術者ではなく、「祈りと哲学」を熟知したアーティストでなければならないと思います。
吉田 これはご遺族のお気持ちが理解できるエンバーマーを育てたいと思ったからです。知識や技術の前にまず、”葬儀“を知ることが大切。まず、遺体そして遺族への思いやりの心を教えた上で、エンバーミングの技術を教えます。技術があればエンバーミングができるわけではありません。まず遺族への心のケアありき。日本人のメンタリティーを理解し、ヒューマニズムあふれるエンバーマーを育てるのが目的です。
佐藤 アメリカにおいてエンバーミング技術は国家資格です。州によっては検視官と同等の社会的地位が認められています。医学、心理学のトータルケアができてこそ、初めてプロフェッショナルと認められるんですね。
佐藤喜宣 医師・医学博士。1979(昭和54)年日本大学大学院社会医学系法医学専攻修了。1980年からイタリア政府留学生としてローマ大学法医学研究所へ留学。帰国後は、琉球大学、日本大学、東京都監察医医務院医長監察医などを経て、1987(昭和62)年より杏林大学医学部法医学教室主任教授。同年より警視庁法医鑑識嘱託。イタリアで学んだ虐待被害者支援の院内ネットワークの日本モデルを実践するなど、被害者支援にも活躍。著書に『事例による死亡診断書・死体検案書記載のてびき』『臨床のための法医学』など。
吉田武 1937(昭和12)年、三重県生まれ。56(昭和31)年、四日市商業高等学校卒業。住友銀行を経て、90(平成2)年株式会社公益社総務部入社。2000(平成12)年5月公益社代表取締役専務、03(平成15)年4月同社長に就任、現在に至る。
吉田 ゆくゆくはこれを葬祭専門学校、そして葬祭大学に発展させたいと考えています。エンバーミングを含めた、葬祭に関するあらゆる知識を兼ね備えたトータルケアができる葬祭ディレクターを育成したいと考えています。
(注) IFSA(日本遺体衛生保全協会):遺体からの感染防御、エンバーミングの日本における適切な実施と普及を目的として作られた団体。
Copyright (C) 2004 KOEKISHA CO.,LTD. All Rights Reserved.